ニコニコ動画が未来を作る 〜 ドワンゴ物語

ドワンゴができるまでの創業時メンバーたちの活動から、ドワンゴの設立、そしてニコニコ動画が生まれるまでを描いたドワンゴの社史ともいうべき本。本書のサブタイトルは「ドワンゴ物語」となっているのだが、本書の内容からするとこちらがメインタイトルで、ニコニコ動画は最後に登場する1トピックでしかない。ニコニコ動画について詳しく知りたいと思って買った人は肩すかしを食らうことになるが、ドワンゴという会社に興味がある人には面白い本かと思う。

僕がドワンゴという名前を知ったのは着メロのテレビCMだったと記憶している。だからそれ以前のゲーム開発会社としての側面は全く知らなかった。iPhoneの情報を漁っているときに本書に登場する清水亮さんの名前を知り、彼のブログやTwitterへの投稿を眺めているうちに以前彼がドワンゴでゲーム開発をしていたということを知った。そんなわけで薄々とは知っていたことだが、本書を読んでようやくゲーム開発会社としてのディープな実態を知ることができた。マイクロソフトのゲーム事業、ゲームのネットワーク化、iモードのゲームと、ゲーム業界のいくつかある変わり目にいちいち関わっていることが、すごいというのか特異というのか、独特なポジションにあったのかなぁと思う。

その後iモードのゲーム事業から着メロ事業が派生し、大きく成長する過程が描かれている。着メロ業界にはすでに多数の企業が存在していてドワンゴは新参者だったのだが、当時はまだ4和音程度の着メロしかなく、ドワンゴはそこで16和音で高音質を売りにした着メロを武器にして成長していく。その後、音楽レーベル主導の着うたの登場によってドワンゴの着メロ事業は大ダメージを受けるのだが、一携帯端末ユーザーでしかない僕の目には着実な進歩を遂げているだけのように見えた着メロ・着うたの裏では、激しい競争とパワーバランスの変動が起きていたことを知って驚いた。

着メロで大きな利益を上げていたドワンゴだが、着うたの登場によって以前ほどの利益を望めなくなり赤字も出すようになる。その時期の試行錯誤から次第にニコニコ動画の誕生へと話が繋がっていくわけだが、このあたりの話を読んでいて思ったのは「ニコニコ動画は赤字続きだけどドワンゴ本体の利益で補っているから続けていられるんだよと聞いていたけど、ドワンゴ本体も調子がいいわけではないのか?」ということだった。だとしたらニコニコ動画の黒字化はわりと急がないといけないのが実情なのかもしれない。ドワンゴは上場企業だからその辺を知りたかったら決算書を見てみればいいのか。

ところでニコニコ動画が黒字化するにはどの程度の有料会員がいればいいのだろうか。Youtubeから切断されて独自のサーバを準備するくだりで、年間の運用コストの見積もりが18億円とあった。本書の中では有料会員が30万人と書いてあったが、ちょっと前に50万人を突破したらしいので、有料会員からの収入は
500円 × 50万人 × 12ヶ月 = 30億円
となる。あれ・・・運用コストを上回ってるじゃないか、と思ったが、18億円という数字はレンタルサーバで10万人限定でやる場合の見積もりで、現在の運用コストはもっと高額になっているんだろう。

ニコニコ動画が黒字化するかどうかもまだわからないけど、今後5年10年経った時にドワンゴが何をやっているのかというのが、これまでの経緯を見てると予想がつかない。ヒューレット・パッカードの創業者のビル・ヒューレットさんは3Mという企業について「本当にすごいのは、3M自身、次にどう動くのかが、たぶんわかっていないことだ」と語ったそうだが、ドワンゴもそういう企業なんだろうか。技術力を武器に試行錯誤を続ける中でちょこちょことヒットを出し続けるみたいな調子で。

それにしても経営にまつわるお金の話は、聞くだけでこっちまで軽く胃が痛む気がする。僕には社長業は無理だな。